大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 昭和38年(ワ)96号 判決 1964年1月31日

原告 庄子電気株式会社

被告 上島博

主文

被告は原告に対し金七九五、〇〇〇円およびこれに対する昭和三八年五月三〇日以降右金額完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において、被告に対し金二〇〇、〇〇〇円またはこれに相当する有価証券を担保として供するときは、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、原告訴訟代理人は主文第一、第二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、被告上島博外一名は共同して、昭和三七年一二月五日訴外松下電器産業株式会社に対し、左記の約束手形六通を振出し交付した。

(一)  額面 金一八万円

支払期日 昭和三八年一月二〇日

支払地・振出地 盛岡市

支払場所 株式会社東北銀行大通支店

(二)  額面 金一七万円

支払期日 昭和三八年一月二九日

以下(六)の手形まで、すべて、支払地・振出地、支払場所は、いずれも前記(一)の手形に同じ。

(三)  額面 金一〇万円

支払期日 昭和三八年二月二〇日

(四)  額面 金一〇万円

支払期日 昭和三八年三月二〇日

(五)  額面 金一〇万円

支払期日 昭和三八年四月二〇日

(六)  額面 金一四五、〇〇〇円

支払期日 昭和三八年五月二九日

二、右訴外松下電器産業株式会社は、昭和三八年一月一四日前記手形六通を訴外光明施設工業株式会社に、同訴外会社は更に同日これを原告会社に順次裏書譲渡し、原告会社が右六通の手形の所持人である。

三、そこで原告会社は、振出人である被告外一名に対し、再三右手形金の請求をなしたにもかかわらず被告等は支払わないので、右各手形金およびこれに対する、右六通の手形のうち、最終の支払期日である昭和三八年五月二九日の翌日から完済まで手形法所定年六分の割合による金員の支払を求める。

第二、被告は本件につき第一回および第二回口頭弁論期日につき適式の呼出状の送達を受けたにもかかわらず口頭弁論期日に出頭せず更にその後被告の所在が不明となつたため、爾後は、公示送達の方法により、適式な呼出を受けたにもかかわらず、引続き口頭弁論期日に出頭せず且つ答弁書その他の準備書面の提出をしなかつた。

理由

本件記録に徴すると、本件につき、訴状、答弁書催告状並びに昭和三八年七月二日午前一〇時の口頭弁論期日呼出状が昭和三八年五月二一日適式に被告に送達され、次いで昭和三八年七月二六日午前一〇時の口頭弁論期日呼出状が同月六日、引続き、原告提出の請求の趣旨並びに原因訂正申立書が同月一二日何れも適式に被告に送達され、右昭和三八年七月二六日の口頭弁論期日に被告不出頭のままで、原告において訴状並びに請求の趣旨並びに原因訂正申立書を陳述したこと、被告は右二回に亘る口頭弁論期日には何れも出頭せず、更にその間において答弁書その他の準備書面の提出をせず原告主張の事実を明かに争わなかつたところ、その後被告はその所在を不明にしたため、被告は、爾後の口頭弁論期日は公示送達の方法により呼出を受けたことが明かである。

さて民事訴訟法第一四〇条第三項但書には、口頭弁論期日に不出頭の当事者が公示送達による呼出を受けた場合は、所謂擬制自白の効果は認められない旨が規定されているが、同但書の趣旨は、公示送達が名宛人に現実に知られることが殆どないことに鑑み、それにもかかわらず相手方の主張事実を全部自白したものとみなすことは酷であるとの考慮に基くものであるから、本件被告の如く、訴状、答弁書催告状および請求の趣旨並びに原因訂正申立書並びに第一回、第二回口頭弁論期日呼出状を何れも適式に送達され、従つて自己に対する訴訟係属の事実を了知しているにもかかわらず、これを無視して、その後みずからその所在を不明にしたため、止むを得ず爾後の口頭弁論期日につき公示送達の方法による呼出がなされた場合においては前記但書はその適用をみないものと解すべきである。

そうすると、本件被告は原告主張の事実を明かに争わないからこれを自白したものと看做すべく、而して原告主張の事実によれば原告の本訴請求は全て正当と認められるからこれを肯認し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安達昌彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例